論理的思考の限界

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【問題】

とある病院では、慢性的に手術室が不足して困っている。

緊急で運び込まれた患者がいる時に、

いつも別のオペで既に埋まっているので、

手術の予定をどんどん入れ替えて対応しなければならないという。

この結果として、医師はズレた予定を埋め合わせるため、

残業をせざるを得ない状況にもなっている。

この問題を解決するにはどうすればいいだろうか。

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衝撃の解答だが、これは

「手術室を一つ使わずに空けておく」が正解だ。

(※スマホで読めなかったので、表記を変更した)

これは

いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』のP.234「組織における欠乏への対処」

の部分から拝借しているが、

実際にアメリカのミズーリ州にある、セント・ジョンズ地域医療センターで起こった話だ。 

この対策により、結果として、

病院が受け入れられる手術は5.1%増えた。

試行期間もわずか一ヶ月だ。

さらにその後二年間、病院の手術件数は毎年7~11%増加している。

なぜこれがうまくいくのか。

ポイントは、

一見すると問題は、手術室の不足に見えるが、

真の問題は急患が受け入れられない状態であることにある。

 
この問題は「欠乏の罠」と呼ばれる人の心、

あるいはシステムの性質を理解していなければ、

解くことができない。
多くの人の直感には反する答えであり、
実際に当院の医師からも
「私たちはすでに大忙しなのに、

そんな私たちから何かを奪い去ろうなど、

まともじゃない」
と反対の声があがっていた。

詳細は本書を読んでいただきたいが、

簡潔に説明すると、人の心などに余裕がない状態を、

本書では「欠乏」状態と総称し、

人やシステムが機能不全に陥る原因であることを述べている。

例えば、道路は交通量が容量の70%以下で最もスムーズに機能し、

余裕がないと渋滞が起こる。

手術室の問題に話を戻すと、

空室がない状態(欠乏状態)だと、

緊急時のオペで予定調整の玉突きという大きなコストの発生を生み、

それが医師の疲労や手術効率の低下など、

システムの機能不全を生んでしまう運命にあり、

一生手術室の空きを作ることができない。

そして重要なのは、この知識なしに論理的に分解して考える限り、

絶対に答えにたどり着くことができないということだ。

(論理的に考えるとどうなるのかは、後述の補足をご覧いただきたい)

論理的思考力は言わずもがなこれからも必要ではあるが、

それに加えて、こうした最新の人の心やシステムの性質の研究結果を十分に理解した上で、

問題解決に当たることが重要だ。

【補足】

欠乏の罠の知識なしに、

論理的に思考していくと(あるいは問題定義を誤ると)どうなるのか、
要素を分解して考えてみよう。

仕事の処理問題なので、

ストックフローモデルを利用する。

inflow × outflow × stock

(”×”の記号は算術の掛け算というより、要素の組み合わせ、という意味)

の三要素に分けると、それぞれ以下のように対応する。

inflow = 搬入患者数

outflow = 手術の効率 × 医師の数 × 手術室の数

stock = 手術待ちの患者数

つまり、対応策は

・搬入患者を減らす

・手術の効率を上げる

・医師の数を増やす

・手術室を増やす

・手術待ちの患者数を減らす

の選択肢しか出てこないので、

「常に空室を一つ作る」という解答は永久に生まれない。

また、上記のような対応策を取ったとしても、

欠乏状態が解消されない限り(増やした空室を手術で埋まる限り)、

結局は同じように緊急時に手術室がなく、

予定の組み替えの玉突きが発生し、

慢性的な手術室不足と医師の残業という問題が

解決されないという現象を招くことになる。 

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